成年後見制度が大きく変わります
~「一生やめられない制度」から「必要なときだけ使える制度」へ~/
2026年4月3日、政府は成年後見制度を大きく見直す民法改正案を開議決定し、国会に提出しました。2028年度中の施行を目指しています。
この改正は、認知症や知的障がいなどで判断能力が低下した方を支える「成年後見制度」について、長年指摘されてきた課題——とくに「一度始めると亡くなるまでやめられない」という問題——を解消し、本人の意向をより尊重した使いやすい制度に変えるものです。
当事務所では、専門職後見人として多くの方の後見業務に携わってきました。このコラムでは、今回の改正のポイントをわかりやすく解説します。
① そもそも「成年後見制度」とは?
成年後見制度とは、認知症や知的障がいなどで判断能力が不十分になった方の財産管理や契約手続きを、家庭裁判所が選んだ「後見人」がサポートする制度です。
主なサポート内容:
- 預金の管理や不動産の売却など、財産に関する手続き
- 介護サービスの契約や医療・施設入所の手続き
- 悪質な契約を取り消す権限(詐欺被害の防止)
遺産相続の手続きや不動産の売却など、「この手続きのためだけ使いたい」という方にも、現行制度では一度申立てをすると原則として亡くなるまで続く仕組みになっています。これが大きな問題でした。
② 現行制度の「使いにくさ」
| ● 現行制度の主な問題点 ・一度始めると、本人が亡くなるまで原則やめられない(終身継続) ・相続の手続きが終わっても制度が続いてしまう ・後見人が財産管理のほぼすべての権限を持ち、本人の自由が制限される ・後見人を選ぶ際、本人や家族の希望が通りにくい ・制度を使い始めると、銀行ローンや保険契約に制限が生じる場合がある ・不動産売却の際、裁判所から「契約不適合責任の免除」を契約条項に盛り込むよう求められるため、売却価格が下がりやすい ※「契約不適合責任」とは:不動産の売却後に雨漏りや設備の欠陥など隠れた問題が発覚した場合、売り主が買い主に対して補 修・損害賠償などの責任を負うルールです。売主(被後見人)にとっては、免除条項を入れることで欠陥が後から発覚しても 損害賠償を求められないというメリットがありますが、買主にとっては欠陥が発覚しても責任追及できないリスクを負うこと になるため、その分だけ売却価格が下がります。後見人が不動産を売却する際、裁判所はこの免除条項を契約に盛り込むよう求 めるため、結果として売却価格が下がりやすくなります。 ・損失リスクのある有価証券の購入は原則禁止のため、積極的な資産運用ができない |
こうした制約を補う方法として「家族信託」があります。資産運用や柔軟な財産管理が可能になる一方、信託契約の設計・登記費用などがかかるため、ある程度の資産規模がないと費用倖れになるケースもあります。いずれの制度も、ご家族の状況に合わせた選択が重要です。
③ 2026年改正の主なポイント
【ポイント1】制度に「終わり」が設けられる
家庭裁判所があらかじめ利用期間を定め、期間が終わったら制度が終了できる仕組みになります。たとえば、「相続の手続きが終わるまでの間だけ」という使い方が可能になります。また、本人の判断能力が回復した場合や、他の方法で代わりに対応できる場合なども制度を終了できるようになります。
【ポイント2】後見・保佐・補助の3種類が「補助」に一本化される
現行制度には判断能力の程度に応じた「後見」「保佐」「補助」の3種類がありますが、改正後は「補助」に一本化されます。支援者(補助人)に与える権限は、その方に必要な範囲に限定できるため、本人の自由が過度に制限されにくくなります。
【ポイント3】本人の意向がより尊重される
支援者を選ぶ際、本人や家族の意向が今まで以上に重視されます。また、支援者を交代させる理由が広がり、「本人の利益のために特に必要がある場合」には柔軟に変更できるようになります。
【ポイント4】地域の支援体制とつながる新しい仕組み
行政・福祉・法後関係者などが連携して本人を支えるチームづくりが重視され、家庭裁判所だけでなく地域全体で支援を行う体制が整備されます。
④ 今後のスケジュール(見込み)
| 2026年4月 民法改正案を開議決定・国会提出 2026年内 国会での審議・成立見込み(公布から2年6か月以内に施行) 2028年度中 新制度の運用開始(見込み) ※ 現在、すでに制度を利用中の方への経過措置も検討されています。 |
⑤ こんな方に特に関係する改正です
- 親が認知症になり、実家の売却や相続手続きを考えている方
- 「後見制度を使うと一生やめられない」と聞いて申立てを蹷躇していた方
- 介護や障がいを持つご家族の将来の生活を考えている方
- すでに後見制度を利用中の方(経過措置の対象になる可能性があります)
※ 改正法はまだ成立・施行されていません。詳細は今後の政省令等によって定められますので、最新情報にご注意ください。
⑥ 「任意後見」「家族信託」との関係は?
今回の改正は、家庭裁判所が関与する「法定後見(新・補助制度)」に関するものです。
一方、ご本人が判断能力のあるうちに自分で準備できる「任意後見」や「家族信託」については、今回の改正の直接の対象ではありません。ただし、法定後見制度が使いやすくなることで、制度の使い分けがより明確になると考えられます。
当事務所では、任意後見・家族信託・法定後見のいずれについても、ご本人やご家族のご状況に合わせてご相談に応じています。
まとめ
今回の成年後見制度の改正は、認知症社会を迎えた日本において非常に重要な一歩です。「必要なときに、必要な範囲だけ、本人の意思を大切にしながら使える制度」を目指すものです。
ただし、まだ法案の審議中であり、具体的な手続きや経過措置の内容は今後明らかになります。「今すぐ申立てをした方がいいのか」「任意後見を先に準備した方がいいのか」といった判断は、個別の状況によって異なります。
ご不明な点やご相談はお気軽にご連絡ください。
